W・D・レイミー著
松田出訳

 


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スミス牧師から何度も教えていただいている文学構造「キアスマス(Chiasmus 交差配列法 :キアスムス、カイアズマスとも言う)」ですが、つねづね、簡単に日本語で紹介する文章が必要だと考えていました。
そこで、聖書の文学構造やキアスマスについてたくさんの例を紹介してくれるサイト inthebeginning.org にある、W・D・レイミー著の Introduction To Chiasmus を翻訳いたしました。
聖書は、テーマ、人物像、象徴などが、豊かに組み合わされ織り込まれた、美しく栄光に輝く書物であることを、賛美せずにはいられません。

2001.4.4 +カンノカズヒコ@さいわいネット



Introduction to Chiasmus - Dr. William D. Ramey

原著: http://www.inthebeginning.org/chiasmus/introduction.doc
出典サイト: http://www.inthebeginning.org/
 
キアスマス−文学構造で読む聖書 ウィリアム・D・レイミー著 松田出訳


何年も前、聖書の構造を研究し始めたころは、聖書へのアプローチをすべて考え直すことになるとは思いもしなかった。それまで聖書を教えてきた経験や、個人的に聖書を学んだり、考えたり、瞑想したり、祈ったりしてきたことすべてについての再検討である。

聖書は私の想像をはるかに超えたものであり、ヘブル語旧約とギリシャ語新約両方の構造を詳しく調べていくうちに「神の御言葉」や「誤りのない御言葉」という表現は、私にとって、もっと深い意味を持つようになった。私が取った方法は、自分で聖書についていろいろな発見ができるやり方だ。個人的には確実に役立ったといえる。この方法は新たな聖書解釈の視点を提供するためのものである。

■導入

旧約の記者も新約の記者も綿密な計画のもとに聖書を書いたということを今日では多くの聖書学者が認めている。記者の記述に見る、歴史的ストーリーに神学概念をおり込むための、最大の影響を与え、かつ精妙な特徴とは、題材を形付けるための全体の枠組みである。「文脈」とも呼べる。正確にいうなら「文の構造」だろう。ここで言明しているのは、部分の大小にかかわらず聖書の各部は必ず有機的に互いに関連し合っていることである。

したがって構造に言及するとき、その聖書文脈に含まれるいろいろな要素どうしの関連全体を指している。古代の文学構造様式を意識することなしに、聖書箇所を緻密に読んだり、正しく解釈したりすることは不可能である。

語、文、段落、話などを区切る習慣のない文化では、思考単位の始まりと終わりを示す文学的手法が必要だった。近代的文脈では、句読法、段落、章、小見出し、段落番号などを駆使しその区切りを示すのに対し、古代文学様式ではキーワードや慣用句、概念などを思考単位の始まりと終わりで繰り返す方法をとった。したがってそのような枠組み構築法の基本的機能は思考単位の境目を標すことであった。

[キアスマスの定義]

過去には多彩な文学形式(step parallelism, inclusionなど)が使われてきたが、聖書の文学形式がここ100年、特に20年ほど前から注目されるようになった。それがキアスマス(chiasmus、chiasm)である。キアスマスとはギリシャ語で「X形に交差した2本の線」を意味する(Xはギリシャ語アルファベットの22番目の「キー」)。

文学的にはキアスマスとは、並行した文・単語・概念の始まりと終わりが対称的に配置されることを指している。句、節、段落、章だけでなく、ときには書物全体がキアスマスになることもある。簡単な例を見てみよう。マタイ福音書7:6である。

A 聖なるものを犬に与えてはいけません。
 B また豚の前に、真珠を投げてはなりません。
 B' それを足で踏みにじり、
A' 向き直ってあなたがたを引き裂くでしょうから。

AとBの文は、鏡像のようにB'とA'に反映されている。マタイ福音書7:6をキアスマスとして見るなら意味をはっきりとらえることができる。

犬(A)→引き裂く(A')
豚(B)→踏みにじる(B')

という対応関係はきわめて論理的だといえる。
 
上の例でみたようにキアスマスは基本的に2つの要素でできている。「倒置」と「並行」だ。この2要素から「折り返し点」という3番目の要素が生み出される。上の例は厳密にいえば「折り返し点」がないのでキアスマスではなく倒置並行法だ。キアスマス独特の構造は「折り返し点」を持つことである。折り返し点があるので、ほかの部分の構造も生じてくる。つまり、折り返し点でない部分を比較・対照・完結させることによって、折り返し点にあたる概念を補強するわけだ。
 
もう一度まとめると、キアスマスとは、中心概念を包み込むように対称的に配置され、並行法、直接法、倒置法、対照法などによる構造をもった文のことである。
 
前半部の終わりがそのまま後半部の始まりに現れるので、自然と「その間」に注意が向けられる。例を見てみよう。
 
A  B  X  B'  A'
 
上の「X」にあたる部分が対称をなす左右の中心にあることがわかるので、これを「折り返し点」とみなすわけである。

[キアスマスを視覚化する]

キアスマスを扱うための基本原則は、
初めから終わりへ一方向にではなく、
初めと終わりの双方向から中心に向かって見ていく

である。私たちは主に西欧的にものを考えたりアウトラインを作ったりするように訓練を受けてきた。これは古代中近東の思考方法と相容れない。たとえば私たちはアウトラインを作るとき、思考の流れが進むのに合わせて数字や文字を、連続して直線的に紙の上に書き込んでいく。しかし、2000〜3500年前に全く異なる言語で書かれた聖書を読むときにも、このスタイルをそのまま適用してよいものかどうか、少し疑問に思ってみてもよいのではないだろうか。
 
ある文書に組み込まれたキアスマス構造を調べるのによいと思われるアプローチは次のとおりである。
 
まず、繰り返し現れる文字列を拾い出す(伝統的な方法)。次にそれを「A  B  X  B'  A'」の形にあてはめてみる。この文書構造が西欧の伝統(特に西欧文学において)とは非常に異なるので、たしかに私たちには読みづらい。しかしキアスマスの原則を学んで聖書に適用したいと心から願う者にとって、キアスマスは美しく、文学的・神学的価値の高いものだ。
 
古代文献は、キアスマスを示すためにわざわざインデントを付けるようなことはしていない。それをインデントで視覚化する理由は、ひとつには構造を把握するのに不要な情報を取り除くためであり、2番目に、込み入ったストーリーを把握しやすい形に置き換えるためである。これにより理解にかかる時間は短縮される。

■旧約聖書のキアスマス実例集

何種類かのキアスマスに慣れていただくための実例を示す。わずか2〜3文しかない例もあるが、ひとつまたは複数の章をそっくりキアスマスとして示したものもある。この実例集は、私たちのウェブサイトで適宜公開していく予定だ。実例には短い解説も付けられている。ただし、現在のところは「アウトラインのみ」の実例を掲げることとする。

[アブラハムとの主の契約]創世記17:1-25

A アブラムの年齢(1a)
 B 主がアブラムに現れる(1b)
   C 神の最初の語りかけ(1b-2)
    D アブラムひれ伏す(3)
     E 神の2番目の語りかけ(アブラムの改名、王たち 4-8)
      X 神の3番目の語りかけ(割礼の契約 9-14)
     E'神の4番目の語りかけ(サライの改名、王たち 15-16)
    D'アブラハムひれ伏す(17-18)
   C'神の5番目の語りかけ(19-21)
  B'神がアブラハムを離れて上られる(22)
A'アブラハムの年齢(24-25)

[モーセの前半の人生]出エジプト記2:1-22

A モーセの両親の結婚とモーセの誕生(1-4)
 B モーセ、パロの娘に引き取られる(5-10)
  C モーセ、イスラエル人の兄弟を助ける(11-12)
   X モーセ、兄弟に裏切られる(13-14)
  C'モーセ、ミデヤン人の女を助ける(15-17)
 B'モーセ、祭司の娘の家に招かれる(18-20)
A'モーセの結婚と息子の誕生(21-22)

[大洪水]創世記6:10-9:19

A ノアの息子たち(6:10a)
 B セム、ハム、ヤペテ(6:10b)
  C 箱舟作りの命令(6:14-16)
   D 洪水の予告(6:17)
    E ノアに与えられた契約(6:18-20)
     F 箱舟の食糧(6:21)
      G 箱舟に入るよう命令される(7:1-3)
       H 7日間洪水を待つ(7:4-5)
        I 7日間洪水を待つ(7:7-10)
         J 箱舟に入る(7:11-15)
          K 主が箱舟の戸を閉じる(7:16)
           L 40日間の洪水(7:17a)
            M 水かさが増す(7:17b-18)
             N 水が山々をおおう(7:19-20)
               O 150日間水が増えつづける(7:21-24)
                X 神はノアを心に留められる(8:1)
               O'150日間水がとどまる(8:3)
             N'山々の頂が現れる(8:4-5)
            M'水がとどまる(8:5)
           L'40日の終わり(8:6a)
          K'ノア、箱舟の窓を開ける(8:6b)
         J'カラスと鳩を放つ(8:7-9)
        I'7日間水が引くのを待つ(8:10-11)
       H'7日間水が引くのを待つ(8:12-13)
      G'箱舟を出るよう命令される(8:15-17[22])
     F'箱舟の外での食糧(9:1-14)
    E'すべての肉なるものとの契約(9:1-4)
   D'大洪水が地を滅ぼすことはない(9:8:10)
  C'箱舟(18a)
 B'セム、ハム、ヤペテ(9:18b)
A'ノアの息子たち(9:19)

大洪水のストーリーは複雑ではあるが、ストーリーの前半と後半は鏡像のように対応している。中心は8:1の「神はノアを心に留められる」である。しかし最も目を見張るべき点は、8:1以降の「日数」についての箇所が、8:1以前に対してそっくり反転していることだ。上のキアスマスから日数に関する部分を抜き出してみよう。

7日間洪水を待つ(7:4)
 7日間洪水を待つ(7:10)   
  40日間の洪水(7:17a)    
   150日間水が増えつづける(7:24)     
    神はノアを心に留められる(8:1)
   150日間水がとどまる(8:3)   
  40日の終わり(8:6a)  
 7日間水が引くのを待つ(8:10)
7日間水が引くのを待つ(8:12)

キアスマスの構造は、大洪水のストーリーを記述するのにぴったりといえる。文書構造が歴史的できごととよく似ているからだ。ノアは箱舟に入り、そして出ていく。水は増え、そして減る。いいかえるならば、ストーリー全体がわざわざ大きく二つに分かれるように、前半部と後半部が対応する形で実際の歴史が創られていったためだ。

さて次に、ヨセフのストーリー(創世記37:1-50:26)を見てみよう。このストーリーは異なるパターンを組み合わせた構造で書かれている。

[ヨセフのストーリーの導入部]創世記37:2b-11

導入:カナンの地で家族とともに住むヨセフの背景(37:2b-e)

A イスラエル、ヨセフを特に愛する(37:3)
 B 兄弟たち、ヨセフを憎む(37:4a)
  C 兄弟たち、ヨセフの前で黙る(37:4b)
   D ヨセフの第一の夢に対する兄弟たちの反応(37:5)
    E ヨセフの第一の夢の説明(37:6-7)
     X ヨセフに対する兄弟たちの憎しみの高まり(37:8)
    E'ヨセフの第二の夢の説明(37:9-10a)
   D'ヨセフの第二の夢に対するヤコブの反応(37:10b)
  C'ヤコブ、ヨセフに語る(37:10c)
 B'兄弟たち、ヨセフをねたむ(37:11a)
A'ヤコブ、事態を憂れえる(37:11b)

[創世記37:12-36]

導入:ヨセフの兄弟たち、シェケムで羊の群れを飼うために出かける

A ヨセフに対するイスラエルの依頼(37:13a-b)
 B ヨセフ、忠実に(37:15-17)
  C ヨセフ、兄弟たちを見つける(37:15-17)
   D ヨセフを亡きものにしようとする兄弟たちの陰謀(37:18-22)
    X ヨセフに対する兄弟たちの暴行(37:23-24)
   D'兄弟たちの陰謀の変更(37:25-28)
  C'ルベン、ヨセフを探すが見つからない(37:29-30)
 B'兄弟たち、忠実にヨセフの長服を父に持ち帰る(37:31-33)
A'ヨセフに対するヤコブの嘆き(37:34-35)

結び:ヨセフ、エジプトに売られる(37:36)

[創世記38:1-30]

導入:ユダ、父の家と兄弟たちから離れる(38:1-5)

A 子のないやもめ(38:6-11)

     a タマル、やもめの服を脱ぎ、遊女の服を着る(38:14)
      b ユダ、タマルを売春婦として買う(38:15-16b)
  B     x ユダ、印形とひもと杖をしるしとして与える(38:16c-18b)
      b'ユダ、タマルのところにはいる(38:18c)
     a'タマル、遊女の服を脱ぎ、やもめの服を着る(38:19)

       a ユダ、しるしを取り戻そうとする。タマルは見つからない(38:20)
        b アドラム人、遊女を探す(38:21a)
    X     x アドラム人への答え(38:21b)
        b'アドラム人、結果を報告する(38:22)
       a'ユダ、しるしをあきらめる。タマルは見つからない(38:23)

     a ユダ、タマルが売春により身ごもったことを告げられる(38:24a-b)
      b ユダ、タマルを焼き殺すよう布告する(38:24c)
  B'     x ユダ、印形とひもと杖を自分のものと認める(38:25-26a)
      b'ユダ、タマルが正しいことを布告する(38:26b)
     a'ユダ、タマルと再び関係を持たない(38:26c)

A'やもめにふたごが生まれる(38:27-30)

[創世記39:1-23]

背景:ヨセフ、イシュマエル人によりエジプトのポティファルに売られる(39:1)

A ヨセフ、ポティファルの家で成功する(39:2-6a)
 B 解説:ヨセフは美男子だった(39:6b)
  C ポティファルの妻の欲望(39:7a)
   D ポティファルの妻、ヨセフに言い寄る(39:7b)
    X ヨセフ、罪を犯すことを拒否する(39:8-9)
   D'ポティファルの妻、ヨセフに言い寄る(39:10-12)
  C'ポティファルの妻の欲望、拒絶される(39:13-18)
 B'解説:ヨセフ、王の監獄に入れられる(39:19-20a)
A'ヨセフ、ポティファルの監獄で成功する(39:21-23

[創世記40:1-23]

A ヨセフ、献酌官と調理官に出会う(40:1-4)
 B 献酌官と調理官、同じ夜に夢を見る(40:5-8)
  C 献酌官長の夢のときあかし(40:9-13)
   X ヨセフ、献酌官長にとりなしを願う(40:14-15)
  C'調理官長の夢のときあかし(40:16-19)
 B'献酌官と調理官の夢、同じ日に成就する(40:20-22)
A'献酌官、ヨセフを忘れる[調理官は死ぬ](40:23)

[創世記42:1-38]

A ヤコブ、息子たちをエジプトに食糧購入に行かせる(42:1-5)
 B エジプトにおけるヨセフの支配(42:6)
  C ヨセフ、兄弟たちを見つけて夢を見た時のことを思い出す(42:7-9a)
   D ヨセフ、兄弟たちに間者の容疑をかける(42:9b-13)
    E ヨセフの第一の試し(42:14-16)
     X ヨセフ、兄弟たちを監禁する(42:17)
    E'ヨセフの第二の試し(42:18-20)
   D'兄弟たち、罪を告白する(42:21-22)
  C'ヨセフ、兄弟たちから離れて泣く(42:23-24)
 B'「国の支配者」による兄弟の取扱い(42:25-34)
A'ヤコブの前で食糧の袋が開かれる(42:35ー38)

[創世記44:1-34]

a ヨセフ、家の管理者に計略を指示する(44:1-2)
   b 兄弟たち、帰途につく(44:3-4a)
    c ヨセフ、家の管理者に計略を指示する(44:4b-6)
A    x 兄弟たち、無罪を主張する(44:7-10)
    c'家の管理者、計略どおり銀の杯を発見する(44:11-12)
   b'兄弟たち、衣を裂き町に引き返す(44:13)
  a'ヨセフ、計略どおり兄弟たちの罪をとがめる(44:14-15)

 X ユダ、兄弟たちの罪を認める(44:24-29)

  a ヨセフの裁き:ベニヤミンが取られる(44:17)
   b ユダ、裁きの撤回を願う(44:18)
    c ユダ、最初のエジプト行を語る(44:19-23)
A'   x 兄弟たち、父の前で無罪を主張する(44:24-29)
    c'ユダ、ベニヤミンが戻らない場合の予想を語る(44:30-31)
   b'ユダ、裁きの撤回を願う根拠を語る(44:32)
  a'ユダ、ベニヤミンの身代わりを申し出る(44:33-34)

[創世記45:1-28]

A ヨセフ、自分の素性を兄弟たちに明かす(45:1-4)
 B ヨセフ、兄弟たちに語る:神による恵み(45:5-8)
  C ヨセフの招き(45:9-13)
   X ヨセフ、兄弟たちを抱きしめる(45:14-15)
  C'パロの招き(45:16-21a)
 B'ヨセフによる恵み:ヨセフ、兄弟たちに語る(45:21b-24)
A'兄弟たち、ヨセフの生存を明かす(45:25-28)

[創世記46:1-30]

A 神、ベエル・シェバで夜の幻を通してイスラエルに語る(46:1-7)
 X ヤコブの系図 [ヨセフのストーリー全体の中心部](9-27)
A'ヨセフ、エジプトでイスラエルに現れる[幻が現れる意味でのみ使われる単語](46:28-30)

[創世記46:31-47:27]

A ヨセフ、家族がパロの好意を得られるよう準備する(46:31-34)
 B ヨセフ、兄弟のうち五人をパロに引き会わせる(47:1-2)
  C 兄弟たちがエジプトに来た理由:ききん(47:3-4)
   D パロの布告:ヨセフの家族をエジプトに住まわせる(47:5-6)
    X ヤコブ、パロを祝福する(47:7-10)
   D'ヨセフ、家族をエジプトに住まわせる(47:11-12)
  C'ヨセフが銀を集めた理由:ききん(47:13-19)
 B'ヨセフ、民から収穫の五分の一をパロに納めさせる[祭司は例外](47:20-26)
A'イスラエル人、エジプトで繁栄し増える(47:27)

多くの中心的なテーマにおいて、会話の重要性を強調するためにキアスマスが用いられる。創世記47:7-10は強調としてキアスマスが用いられている好例である。

[会話の強調]創世記47:7-10

a ヤコブ、パロに引き会わされる(47:7a)
 b ヤコブ、パロを祝福する(47:7b)
  c パロの質問(47:8)
  c'ヤコブの答え(47:9)
 b'ヤコブ、パロを祝福する(47:10a)
a'ヤコブ、パロの前を去る(47:10b)

[創世記47:28-48:22]

A ヨセフの約束:イスラエルをカナンに連れ戻す(47:28-31)
 B ヨセフ、イスラエルの祝福を求めてマナセとエフライムを連れてくる(48:1-12)
  C イスラエル、手を交差してヨセフの子らを祝福する(48:13-14)
   X イスラエル、ヨセフを祝福する(48:15-16)
  C'ヨセフ、イスラエルが手を交差していることに抗議する(48:17-18)
 B'イスラエル、エフライムとマナセを祝福する(48:19-20)
A'イスラエルの約束:神がイスラエル人をカナンに帰してくださる(48:21-22)

[創世記49:1-33]

A ヤコブの息子たち、ヤコブのもとに集まる(49:1)
 B 預言の始まり(49:2)
  C レアの息子たちへの祝福(49:3-15)
   D ビルハの一番目の息子への祝福(49:16-18)
    X ジルパの息子たちへの祝福(49:19-20)
   D'ビルハの二番目の息子への祝福(49:21)
  C'ラケルの息子たちへの祝福(49:22-27)
 B'預言のおわり(49:28)
A'イスラエル、自分の民に加えられる(49:29-33)

[創世記50:1-26]

A イスラエルの埋葬の計画(50:1-3)
 B ヨセフ、パロに願う(50:4-6)
  C イスラエルの埋葬の準備(50:7-9)
   X イスラエルの悲しみ(50:10-12)
  C'イスラエルの埋葬(50:13-14)
 B'兄弟たち、ヨセフに願う(50:15-21)
A'埋葬の計画とヨセフの死(50:22-26)

[創世記50章の重要性]

創世記50:1-26のキアスマスは際立っており、ヨセフのストーリーを特徴づけている。このキアスマスの中心は、イスラエルの死に対する深い悼み悲しみである。創世記50章には、ストーリーの主題を指し示す単語やキアスマスが多い。クライマックスに向かい、クライマックスを過ぎると、それ以前とは流れが反転し、ヨセフのストーリーを完結させる。

本文にははっきりとした統一性があるが、それはキアスマス構造になっているためばかりではなく、創世記50章全体が有機的につながっているためでもある。文学的にも美しく統一されているのだ。

[創世記50章の概略]

上記のA〜Cは父親に対するヨセフの忠実さを強調する。ヨセフは、父の存命中に忠実であった(創世記37:2, 13)ように、その死に際しても忠実である。創世記47:29の約束と、その成就である50:4-8を対比されたい。

C'〜A'は結びであるが、創世記50章だけでなくヨセフのストーリー全体の結末でもある。イスラエルは先祖たちとともに葬られ、ヨセフの兄弟たちの請願が行なわれ、最後にヨセフ自身が葬られる。

[創世記50章 A-A'の関係]

創世記50章のキアスマスはこの章が重要性であることを示す。AとA'はそれぞれ導入と結語であり、キーワードは「死」と「約束」である。

ヤコブは12人の息子たちを祝福した後、自分がこれから死んで先祖たちに加えられることを告げる。ヤコブは、ヨセフとその兄弟らに誓わせて、マクペラのほら穴に自分を葬るように指示した。これは他の族長たちや彼らの妻たち、またヤコブの妻だったレア(ラケルについては明記されていない)も葬られている場所だ(創世記49:29-32)。最後の指示を与えた後、ヤコブは147歳の生涯を終える(創世記47:28)。

A'はAの繰り返しであり、両方において死者をミイラにする話が語られる。前者はヤコブ、後者はヨセフである。

また、AとA'の記述には対位法も使われている。ヨセフは父との約束を果たすために、カナンへの長い移動に耐えられるよう、死んだヤコブをミイラにする。それからヨセフは兄弟たちに(つまりその子孫にも)約束させて、神が彼らをエジプトからカナンに連れ出すときには自分の骨を携え上るよう指示した。結果的に、骨が風化してちりに帰らないように彼らが選んだ方法は、ヨセフをミイラにすることであった。

次にB-B'、C-C'の関係を見る前に、今までみてきた創世記50章の構造をさらに展開してみよう。

A イスラエルの埋葬の計画(50:1-3)
  a ヨセフ、泣き悲しむ(1)
   x ヨセフの命令(2-3a)
  a'エジプト、泣き悲しむ(3b)

  B ヨセフ、パロに願う(50:4-6)
    a ヨセフ、パロの家に願う(4a)
     x ヨセフの願い(4b-5)
    a'パロ、ヨセフの願いを聞き入れる(6)

   C イスラエルの埋葬の準備(50:7-9)
     a カナンに上るヨセフの一団(7a-8)
      x エジプトに残る一団(8b)
     a'カナンに上るヨセフの一団の詳細(9)

    X イスラエルの悲しみ(50:10-12)
      a 哀悼の場所と期間(10)
       x カナン人、葬儀を見る(11a-b)
      a'葬儀が地名に反映される(11c)

   C'イスラエルの埋葬(50:13-14)
     a カナンへ下る(12-13a)
      x イスラエル、カナンに埋葬される(13b-c)
     a'エジプトに帰る(14)

  B'兄弟たち、ヨセフに願う(50:15-21)
    a ヨセフの兄弟たち、恐れる(15)
     x 兄弟たち、ヨセフの前にひれ伏す:ヨセフの夢の成就(16-18)
    a'ヨセフ、兄弟たちに赦しを再び約束する(19-21)

A'埋葬の計画とヨセフの死(50:22-26)
  a ヨセフの年齢(22)
   x 兄弟たち、ヨセフとの約束を覚える(23-25)
  a'ヨセフの年齢(26)

[創世記50章 B-B'の関係]

B-B'は、ヨセフのストーリーに含まれる独立したいくつかの主題をつなぎ合せるための対句である。ヨセフは父を埋葬しに行かせてくれるようパロに願い出る。このとき、この願いは間接的にパロに伝えられた(50:4)。同じように、罪の赦しを求める兄弟たちの願いも、彼らの父を通して間接的に伝えられている(50:16)。

[創世記50章 C-C'の関係]

Cにおいて、ヨセフの家族を含む親族、パロの高官、貴族たちの大きな一団がカナンへ上る(50:7-9)。目的はヤコブの埋葬であった(50:7a)。しかし、C'(50:13-14)まできてはじめて実際にヤコブの埋葬が行なわれる。

[創世記50章 折り返し点]

折り返し点はX(50:10-12)である。葬儀の期間は、ヤコブの死に対する人々の嘆き悲しみを表す。かつて嘆き悲しむ者はヤコブ自身だった(創世記37:33-35, 42:36, 43:14)。しかし今やヤコブは平安のうちに死を迎えた。今度はヨセフが生きた者となり(46:30)、ヨセフとともにいる者たちが嘆く者となった。

創世記50章の半分以上がヤコブの死の嘆きと葬儀のストーリーで占められている。

ヨセフ自身も嘆き悲しみ(50:1)、ついでエジプト人が悲しむ(50:3)。ヨセフとエジプト人たちは大がかりな葬儀の準備を始める(50:2)。故郷で父を埋葬したいというヨセフの願いはパロに承認された(50:4-5)。

彼らがカナンの地にヤコブの遺体を携えていくことができるようにパロは「非常に大きな一団」を用意した。「パロのすべての家臣たち・・エジプトの国のすべての長老たち」(50:7)、また戦車と騎兵がヨセフに伴った。地元の住民カナン人もこれを見て「エジプトの荘厳な葬儀」(50:11)と称した。

細部がよく描かれているために、葬儀の荘厳さが強調されている。

■新約聖書のキアスマス実例集

旧約聖書と同じく、新約聖書にもキアスマスの例は無数にある。それらのうち、ごく一部を掲げる。

[受胎告知]ルカ1:6-25

A ザカリヤとエリサベツの敬虔(6)
 B エリサベツの不妊(7)
  C ザカリヤの祭司としての務め(8)
   D ザカリヤ神殿に入る(9)
    E 人々外で待つ(10)
     F 御使いザカリヤのそばに立つ(11)
      G ザカリヤの恐れ(12)
       X 受胎告知(13-17)
      G' ザカリヤの疑い(18)
     F' 神の前に立つ御使い(19-20)
    E' 外にいる人々(21)
   D' ザカリヤ神殿から出る(22)
  C' ザカリヤの祭司としての務め(23)
 B' エリサベツ懐妊(24)
A' エリサベツ(とザカリヤ)への神の好意(25)

[ルカ福音書9:51-19:48]

A エルサレム:終末的事件(9:51-56)
 B 「わたしについて来なさい。」(9:57-10:12)
  C 「何をしたら永遠のいのちを得られるか?」(10:25-41)
   D 祈り(11:1-13)
    E しるしと現在の王国(11:14-32)
     F パリサイ人との摩擦:財産について(11:37-12:34)
      G 御国はまだ来ていない、そして今来る(12:35-59)
       H 御国によるイスラエルへの招き(13:1-9)
        I 御国の性質(13:10-20)
         X エルサレム:終末的事件(13:22-35)
        I' 御国の性質(14:1-11)
       H' イスラエルへの御国の招きと見捨てられた者(14:12-15:32)
      G' 御国はまだ来ていない、そして今来る(16:1-8,16)
     F' パリサイ人との摩擦:財産について(16:9-31)
    E' しるしと来るべき御国(17:11-37)
   D' 祈り(18:1-14)
  C' 「何をしたら永遠のいのちを得られるか?」(18:18-30)
 B' 「わたしについて来なさい。」(18:35-19:9)
A' エルサレム:終末的事件(19:10,28-48)

[ヨハネ福音書序文]ヨハネ1:1-18

A 言葉は神とともにある(1-2)
 B 言葉による創造(3)
  C 言葉によっていのちが与えられた(4-5)
   D バプテスマのヨハネ証しのために来る(6-8)
    E 御子の受肉とこの世の反応(9-10)
     F 言葉である神の御国とその民(11)
      G 言葉を受け入れた人々(12a)
       X 神の子どもとされる特権(12b)
      G' 言葉を信じた人々(12c)
     F' 言葉とその民(13)
    E' 御子の受肉とこの世の反応(14)
   D' バプテスマのヨハネの証し(15)
  C' 言葉から恩恵を受ける(16)
 B' 恵みとまことが言葉によって来る(17)
A' 言葉は神とともにある(18)

[使徒行伝15:1-21:26]

A エルサレムの評議会(15:1-34)
 B 伝道旅行と投獄(15:36-17:15)
  C アテネでの説教(17:16-24)
   D コリントの教会と伝道旅行(18:1-23)
    X エペソからアジアへ広がる福音(18:24-19:20)
   D' エペソの教会と伝道旅行(19:21-20:16)
  C' エペソでの説教(20:17-38)
 B' 伝道旅行と捕縛の預言(21:1-14)
A' エルサレム指導者への報告(21:15-26)

[使徒行伝20:18-35]

A パウロの証し(18-21)
 B 預言:エルサレムのパウロ(22-24)
  X パウロ、エペソ人にはもう会わなくなる(25)
 B' 預言:内と外の偽教師(26-30)
A' パウロの証し(31-35)

[コロサイ1:3-9]

A 感謝し・・・あなたがたのために祈っている(3)

  a それは・・・聞いたからです。(4)
   b キリスト・イエスに対するあなたがたの信仰と、(4)
B    x すべての聖徒に対してあなたがたがい抱いている愛のことを(4)
   b'あなたがたのために天にたくわえられてある望みにもとづくものです(5a)
  a'あなたがたはすでに・・・聞きました(5b)

   a 福音の真理のことばの中で(5b)
    b あなたがたに届いた(6b)
     c 世界中で(6a)
  X    x 実を結び広がり続けています。(6a)
     c'あなたがたの間でも見られるとおりの勢いをもって(6a)
    b'あなたがたが神の恵みを聞(いた)とき以来、(6a)
   a'それ(神の恵み)をほんとうに(真理のうちにあることを)理解したとき(6a)

  a あなたがたが・・エパフラスから学んだとおりのものです。(7a)
   b 私たちと同じしもべである愛する(エパフラス)(7a)
B'   x 彼は私たちに代わって仕えている忠実な、キリストの仕え人(7b)
   b'私たちに、御霊によるあなたがたの愛を知らせてくれました。(8)
  a'こういうわけで、私たちはそのことを聞いた日から(9a)

A 絶えずあなたがたのために祈り求めています。(9a)

[1テモテ1:1-6:21]

A テモテと偽教師[律法](1:1-20)
 B テモテと権威ある人々(2:1-3:13)
  X 教会におけるテモテ(3:14-5:2)
 B'テモテと権威ある人々(5:3-6:2)
A'テモテと偽教師[金銭](6:3-21)

[ヘブル1:1-4]

A 終わりの言葉で神が語られる御子の優越性(1-2a)
 B 万物の相続者として高く上げられる御子(2b)
  C 御子は世界の創造において働かれた(2)
   X 御子の神性(3a-b)
  C'御子は言葉によって万物を保たれる(3c)
 B'御子は罪のきよめの後、高い所に上られた(3d-4a)
A'御使いたちにまさる御名に現れた御子の優越性(4b)

[ピレモン1-25]

A あいさつ(1-3)
 B すべての聖徒に対するピレモンの奉仕
  パウロによるピレモンのための祈り(4-6)
  C 聖徒たちがピレモンによって力づけられたのでパウロは喜ぶ(7)
   D ピレモンに命じるよりむしろ願う:パウロの名によって(8-11)
    X パウロとオネシモ(12-17)
   D'オネシモにかかわる経費・損害は負担する:パウロの名によって(18-19)
  C'兄弟からうける将来の慰めに大きな期待を寄せる(20)
 B'パウロに対するピレモンの奉仕
  聖徒によるパウロのための祈り(21-22)
A'あいさつ(23-25)

おもしろいことに、聖書の中である書物がほかの書物を引用するとき、引用のしかた自体がキアスマスになっている場合がある。ひとつの例は黙示録1:5-16である。

A イザヤ55:4(黙示録1:5)
 B ダニエル7:13(黙示録1:7a)
  C ゼカリヤ12:10(黙示録1:7b)
   D イザヤ41:4、44:6、48:12(黙示録1:8)
   D イザヤ41:4、44:6、48:12(黙示録1:11)
  C'ゼカリヤ4:2(黙示録1:12)
 B'ダニエル7:9、13、22、10:5-6(黙示録1:13-15)
A'イザヤ49:2(黙示録1:16)

■キアスマス構造を見つける方法

キアスマスを見つけるための最初のステップは、分析の範囲を決めることである。しかし、キアスマスとして扱うべきかどうかを見きわめるのは簡単ではない。特に、あるストーリーを独立したものとして切り出すことが難しい。複雑なキアスマスの場合には、ひとつのキアスマスが2、3の文しか含まない可能性もあるし、数百語、数千語におよぶ可能性もある。

たとえば、創世記3:6-8(男と女が善悪の知識の木の実から食べた箇所)をひとかたまりのストーリーとして切り出すとしよう。ところが、この部分が創世記2:4b-3:24を構成する上位のキアスマスの一部だと知らなければ「彼は食べた」が折り返し点として強調されていることを見逃すことになる。

さらに、キアスマスが単純なキーワードによる並行関係ではなく、文の意味や概念によって並行している場合、その構造を見つけるのはもっと難しい。とはいえ実際には、ほとんどのキアスマス構造は、繰り返されるキーワード、節、句、文によって見つけることができるので、そこから始めるとよい。

一見してわかるように、この難しさを軽減するための王道はない。丹念に文脈を調べることが最も確実である。語られている(または語られていない)ことに注意を払いつつ、最小単位の細部(並行と対句の両方)に至るまでくまなく調べることだ。またどのような形式で語られているか(叙述なのか対話なのか)についても注意する。

キアスマスらしい箇所が見つかったら、そのアウトラインを書き出してみよう。また、アウトラインに対応する聖書箇所をいつでも参照できるように、各々のアウトラインに聖書の章節番号を書き入れることを忘れないようにしたい。

 
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